<雪国の保存食特集>雪深さから生まれた知恵“大根つぐら”

作成: 日時: 2015年12月1日
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新潟県と長野県の県境に位置する、津南町結東(けっとう)。除雪体制が整い、冬でも車で行き来できるようになったのは昭和53年。冬期の食料調達には、平場のそれよりもずっと知恵や工夫が必要だったに違いありません。人々は春から秋にかけ山や畑から食料を採取し、食べきれないものは大切に保存し冬に備えました。この地域で先人達が生み出した保存食の知恵は、現代においても、どこかほっこりとさせてくれるような驚きと感動を与えてくれます。

晩秋の結東集落

晩秋の結東集落。冬期に車で行き来できるようになったのは昭和53年から。長野県栄村とにまたがる秋山郷と呼ばれる地域でもあり、秋の紅葉シーズンには多くの観光客が行き交う。

 

“大根つぐら”もその中のひとつです。「生まれも育ちも結東」という滝沢政則さんは、今でも大根つぐらを作り続けています。「今ではこんな面倒臭いこと自分だけ(笑)。でもみんながやらないから逆に面白いと思って。」作り方は誰に教わったわけでもなく、親がこうしていたな、という記憶が頼りだそうです。

大根つぐら

大根つぐら。どこか可愛らしい風貌。

 

毎年、稲刈りを終えた10月末から11月始め頃、わらを筒状に編み上げて“つぐら”と呼ばれる容器を作り、家のすぐ脇に置きます。そして雪が降る直前、そこに大根や人参などの食料をしまいます。冬の間、つぐらの中は保存に適切な環境に保たれ、それらは翌年の5月頃まで食べ続けることができるのだそうです。置き場所が家のすぐ脇のため、雪に埋もれてしまう心配もありません。また、春になり山菜など他の食料が豊富に採れるようになると、つぐらはそのまま畑の堆肥になるそうです。大根つぐらは雪国の、冬季限定の保冷庫のようなものでしょうか。

大根つぐら作成中

天日干ししたわらを使用し、身体を囲むように編み上げていく。雨天時など、屋外での仕事ができない日などに屋根のある小屋で作業。

大根つぐら作成中

作ったつぐらを家の脇まで一輪車で運ぶ。

大根つぐら作成中

「見た目をよくするため(笑)。こうすると簡単にできる。」つぐらの端に火をつけると、やさしい炎が表面を包み、すぐに消えた。細かく飛び出たわらが燃え、整った印象に。

大根つぐら作成中

蓋を置いて完成。大きさはその年の大根の収穫量によって変えるという。つぐらの下部にはねずみ除けのため、杉の葉っぱを置いている。

大根つぐらの中

大根つぐらの中は自家栽培の大根がいっぱい。雪が降る直前、畑から採ってきた大根を洗わずにそのまましまう。春まで食用に利用。

 

若い頃は出稼ぎで、よく都会に出たという滝沢さん。「外は外で大変。険しい山の中だが、自分の家が一番いいなあ(笑)。」そう話す表情は活き活きとしていて、雪深い土地で生きる楽しさを滲ませているようでした。

 

 

滝沢 政則(たきざわ まさのり)

滝沢 政則さん

昭和55年、家の内職としてそば屋「久田里」を開業。囲炉裏のある古民家で、地域に伝わるヤマゴボウつなぎのそばや、自家栽培の野菜、山菜などを振る舞う(要予約)。TEL.025-767-2023