見どころをまとめて紹介!川端康成「雪国」の舞台を巡る散策ガイド。

作成: 日時: 2014年9月11日
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川端康成の小説「雪国」。名作として国内外で名高く、読んだことはなくても、作者の名前やタイトルを1度は耳にしたことがあるはず。どこかの名もなき雪国で、旅に訪れた文筆家の島村と、そこに暮らす芸子の駒子が紡いでいく行きずりの恋の物語。一筋縄では語れない深みのある作品ですが、その美しい風景描写は大きな魅力のひとつです。

小説の主な舞台は新潟県湯沢町。作者の川端康成は執筆にあたり、実際に5度にわたり湯沢を訪れたそうです。この湯沢町では、作中に描かれた場所を現在でも訪ねることができます。

作中の場面と時間帯をなるべく合わせ、実際にそれら小説の舞台に立ったとき、どんな風景が見えるのか…。scf本誌の記事を担当するデザイナーと二人で文庫版「雪国」を片手に行った散策レポート。その見どころをまとめてご紹介します。

Photo / Naoto Kawada

小説「雪国」文庫版

恥ずかしながら初めて読んだ「雪国」は、付箋だらけに

 

土樽駅

“向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落した。雪の冷気が流れこんだ。娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、/「駅長さあん、駅長さあん。」/明りをさげてゆっくり雪を踏んで来た男は、襟巻で鼻の上まで包み、耳に帽子の毛皮を垂れていた。 ”

冒頭で、葉子という人物が登場します。葉子は信号所で駅長に自身の弟の面倒を頼み込みますが、その場所が現在の土樽駅です。

四方を山に囲まれた無人駅で、都会から初めて訪れた方はその光景に驚かれることでしょう。当時、川端康成にも強い印象を与えたのではないかと思います。

>>土樽駅と周辺紹介(雪国観光圏)

土樽駅

陸橋の窓から上り方面を眺める。迫力のある山々

 

高半 かすみの間

島村が滞在していた部屋のモデルとなったのが、温泉旅館「高半」の「かすみの間」です。川端康成が実際に滞在し、執筆も行っていたというその部屋が、当時のつくりのまま残されています。

>>高半かすみの間と周辺紹介(雪国観光圏)

高半 かすみの間

当時を感じさせるアイテムがいっぱい

駒子と島村はこの部屋で幾度も夜を過ごしており、作中にはこの窓から見えたであろう風景の描写が、リアルでありながらもどこか神秘的な文章でいくつも綴られています。

“「まだ人の顔は見えませんわね。今朝は雨だから、誰も田へ出ないから」/雨のなかに向うの山や麓の屋根の姿が浮び出してからも、女は立ち去りにくそうにしていたが、宿の人の起きる前に髪を直すと、島村が玄関まで送ろうとするのも一目を恐れて、慌ただしく逃げるように、一人で抜け出して行った。そして島村はその日東京に帰ったのだった。 ”

高半さんに特別に許可をいただき、まだ夜が暗いうちから明るくなるまでの間をかすみの間で過ごし、窓側から見える風景を写真におさめてみました。

高半 かすみの間から、夜明け前の湯沢町

かすみの間から湯沢町を眺める。時代は違えど川端康成も同じような風景を見たはず

わずかな間に、夜空、雲、街の灯り、山並み、青空、日の光が交互に現れては消えていき、そのめくるめく様に驚きます。

作中の窓からの風景描写を「駒子の心を暗示しているかのよう」とは同伴のデザイナーの言葉ですが、なるほど、「揺れる女心」と重なるところもあるような気がしました。

高半 かすみの間から、夜明けの湯沢町

山並みが美しい。夜明けまでにいくつもの表情を見せた

この部屋は現在は高半の小説雪国の展示コーナーの一角にあります。展示コーナーには当時の写真などもあるので、小説のイメージをさらに深めることができるでしょう。

高半 かすみの間 展示コーナーの写真

駒子のモデルとされる松栄さんの写真なども

雪国の宿 高半
〒949-6101 新潟県南魚沼郡湯沢町湯沢(大字)−923
TEL:025-784-3333
http://www.takahan.co.jp/

 

裏山

高半の裏手、旧玄関の向かいには、なだれ込むように山が迫っていて、その入り口には石段が、すぐ上には古い神社が見えます。石段を上がりきると土に変わり、神社の横を通ってさらに上へと続いていきます。

島村が駒子への想いに気づき、気持ちを押さえきれず登っていった山がこの「裏山」です。

“しかし、島村は宿の玄関で若葉の匂いの強い裏山を見上げると、それに誘われるように荒っぽく登って行った。/なにがおかしいのか、一人で笑いが止まらなかった。”

裏山 入り口の石段

山の入口にはこれまたシブい石段が

神社の横を過ぎて1分もたたずに、木々がちょうどよく開ける場所があり、そこから湯沢の町並みが見渡すことができました。当時は高速道路など通っておらず、建物もずっと少なかったそうです。遠くに微かに見える魚野川も、今よりずっと際立って見えたことでしょう。

裏山から見渡す湯沢町

当時の風景を想像してみる…

上の写真の左下、線路のすぐ奥に見える杉林に、駒子と島村のやりとりが描写される「諏訪社」があります。

 

諏訪社

>>諏訪社と周辺紹介(雪国観光圏)

諏訪社

線路をくぐると、杉の間から諏訪社が顔を覗かせた

裏山から下りてきた島村は、偶然駒子と会い、神社へと導かれます。

“女はふいとあちらを向くと、杉林のなかへゆっくり入った。彼は黙ってついて行った。/神社であった。苔のついた狛犬の傍の平な岩に女は腰をおろした。/「ここが一等涼しいの。真夏でも冷たい風がありますわ。」”

駒子が腰をおろした平らな石が、実際に境内にあります。表面にうっすらと苔が生えていて、真夏だというのに、半日ほど前に降った雨がまだ乾かずに残っていました。

諏訪社 駒子が腰を下ろした平らな岩

平らな岩。川端康成もここに腰を下ろしたのだろうか

座ってみると確かにひんやりとしていて、当時は涼むのにいい場所だったではと想像されます。

>>諏訪社の大杉と周辺紹介(雪国観光圏)

平らな岩と、その脇に立つ樹齢約400年の大杉

平らな岩と、その脇には樹齢約400年の大杉も

平らな岩から見上げた狛犬

平らな岩から狛犬を見上げる

 

笹の道

笹の道は、諏訪社境内の裏手から伸びている細い農道のような道です。駒子が朝方、島村が滞在していた部屋を直に訪ねるのに、この道を利用しています。

笹の道

雨は無かったが、朝露のせいか足下が確かに濡れた

“「寒いよ。」と、島村は蒲団を抱えこんで、/「宿じゃもう起きてるのかい。」/「知らないわ。裏から上がって来たのよ。」/「裏から?」/「杉林のところから掻き登って来たのよ。」/「そんな路があるの?」/「路はないけれど、近いわ。」/島村は驚いて駒子を見た。”

川端康成も実際にここを通ったのでしょう。実際に歩いてみると、“掻き登って来た”という言葉がよく合うことがわかります。駒子の、島村への想いが伝わってくるようです。

 

大源太キャニオンキャンプ場

最後に番外編として、大源太キャニオンキャンプ場をご紹介します。

物語の佳境、天の川の描写が多く出てきます。

“ああ、天の河と、島村も振り仰いだとたんに、天の河のなかへ体がふうと浮き上がってゆくようだった。天の河の明るさが島村を掬い上げそうに近かった。”

これは湯沢の町中の場面ですが、当時と違い、建物や街灯で夜も暗くなりません。明るい中で天の川を写真に収めるのは難しいと判断し、湯沢町で星空鑑賞スポットとして有名な大源太キャニオンキャンプ場に行ってみました。

>>大源太キャニオンキャンプ場と周辺紹介(雪国観光圏)

大源太キャニオンキャンプ場からの天の川

大源太キャニオンキャンプ場から天の川を見上げる

結果は大当たり。周りに灯りはほとんど無く、星空の観測には持ってこいの場所でした。キャンプに来て、寝転がって見れたらもう最高でしょうね。すぐ近くの大源太湖でボートに乗れたり、陶芸を体験できる施設もあったりして、家族やカップルにもオススメのスポットです。

大源太キャニオンキャンプ場
〒949-6103新潟県南魚沼郡湯沢町大字土樽
TEL:025-787-3536
http://daigenta.net/00ctop.html

 

旅行するのに気持ちのいい季節になりました。暑さに邪魔されることもないので、勉強や読書にも集中できます。

この秋は「雪国」を片手に、小説の舞台を実際に訪れてはいかがでしょう。川端康成が感じ入ったであろう風景を垣間みることができるかもしれません。

文中引用:川端康成著「雪国」