ごはん道 お米にかける人々の思いを知るべし
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おいしいお米ができる理由を知るべし
新潟県は日本一の米どころ。その中でも魚沼コシヒカリはトップブランドとして誰もが知る存在だ。そのおいしさの理由は魚沼の風土が「コシヒカリ」に適した品種であることが大きい。まず、穂が出てからの気温の昼夜の差がとても大きいこと。日中は太陽の恵みでお米にデンプンが蓄えられる一方、夜間は気温が低くなるためデンプンの消費量が少なくなり、デンプンの詰まったおいしいお米ができる。また、この地域の登熟期間の平均気温がコシヒカリの最適登熟温度の24℃に近いことも挙げられる。
次に用水の水質条件。高い山々からあふれ出る清らかな水が川や田んぼに流れ込むため、透明度が高く、中下流地域に比べて有機物が少ない清涼な水だからだ。また豪雪地帯であるため、夏の暑い時期でも豊富な融雪水が田んぼに流れ込み、稲の発育の元気の素となる。
最後は土壌条件だ。この地域の田んぼは肥沃な土地ではない。しかしこれが生育にかける肥料のコントロールしやすさを生んだ。生育初期には過剰生育を抑えることができ、穂肥の時期にはいもち病の発生を少なくするため肥料を抑えることができる。
またこれらの地理的条件は、同じくみなかみ町や栄村にもあてはまる。つまり、雪国観光圏はおいしいお米ができる条件が備わった土地なのだ。
さあ、おいしいごはんができる理由を知る旅に出かけよう。
*参考文献「南魚沼コシヒカリ誕生秘話」南魚沼市著
おいしいお米を作るには品種、自然条件、そして栽培する人の技術と思いが必要。
地域を代表する米生産者からおいしいお米を作る秘訣とその思いを聞いてみた。
品種と自然条件と生産者の技術この3つがポイント
板鼻 喜久雄 [ 南魚沼市 ]有限会社啓愛ファーム
ここの魚沼コシヒカリがおいしい理由を教えていただけますか。
板鼻 まず、土地も水も肥沃過ぎないことかな。意外かもしれないけど、この辺は他地域と比べて土地も水もそれほど肥沃ではありません。だから加える肥料の時期と量によって稲の生育をコントロールできるのです。肥沃だと玄米のタンパク質含有量が増え、食味が落ちます。また、コシヒカリは他の米より10㎝長いので、稲穂が育ちすぎると倒れてしまいます。
雪はお米のおいしさに関係がありますか。
板鼻 そうですね。清らかな水を田んぼにもたらしてくれることでしょうか。この辺の田んぼは魚野川の支流である五十沢川や三国川など山からの水が一年を通して豊富に田んぼに流れ込みます。養分や生活水が少ない澄んだ水です。さらに、6月の終わりまで雪解け水が田んぼに流れこみます。
おいしい米づくりの秘訣を教えてください。
板鼻 一番は品種。これはコシヒカリですね。次は先ほど述べた自然条件。そしてそれらを活かす生産者の技術と肥料でしょうか。私は肥料は鶏糞など有機物を使用しています。化学肥料と違い緩やかに稲に効きます。また、肥料をやるタイミングも非常に気を遣うところで、毎日稲の様子を見ながら生育記録を取り調整しています。
ところで、食の安全認証である「JGAP」を取得しているそうですね。
板鼻 はい、啓愛ファームは全国でも認められた農場が1%未満のJGAP認証を取得しています。JGAPは食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証制度で、生産工程を管理・記帳して生産の「見える化」を行います。新潟県の指導農業士の会長をした関係で取得を勧められたのがきっかけです。
米作りの面白さは努力がそのまま現れるところ。終わりはありません。
米づくりのポイントは土作りにあり
桑原 健太郎 [ 津南町 ]農業組合法人 グリーンアース津南
桑原さんは全国で7人しかいない全国名稲会のダイヤモンド褒賞を受賞したそうですね。
桑原 はい。これは、米・食味鑑定士協会開催の「米・食味分析鑑定コンクール」において5年連続金賞受賞者しかいただけないものです。このコンクールは全国から数百もの米のサンプルを選抜・炊飯し、主婦の方々やスーパー・量販店などのバイヤー、食味鑑定士が審査員となり、厳正なる食味や香りの審査が行われるコンクールです。
そこまでおいしいお米を作る秘訣を教えていただけますか。
桑原 気候風土もありますが、それはどの農家も同じこと。私の米作りのポイントは土作りにあります。刈り取り後の田んぼに有機物を散布し、す撒き込みます。堆肥などの有機物は土中で微生物によって分解されると、窒素やカリウムなどの稲の成長に必要な養分となります。また、田植え前には有機物とケイ酸をま鋤きます。ケイ酸(ケイ素)は葉を丈夫にし、病原菌や害虫の侵入を防ぎます。農薬も少なくて済みます。
結構手間がかかりそうですね。
桑原 自作だけで50町歩もあり、お金も手間もかかります。田んぼの水の状態を見るのも朝3時起きで、朝4時間夕方4時間かかりますから。でも、やればやっただけおいしいお米ができますね。
最近組合には農業未経験の若い方も入社されたそうですね。
桑原 はい。農業に興味を持ってうちの門をたたいてくれたことにありがたく思います。若い人にはいろいろな分野の勉強をしなさいと言っています。作物の作り方だけでなく、自然、商取引、会計、パソコンなど幅広く知識を身につけてもらいたいですね。
米袋には環境王国のロゴも印字されていますね。
桑原 「環境王国」とは優れた自然環境と農業のバランスが保たれ、安心できる農産物の生産に適した環境の地域に与えられる称号で、津南町は全国に16ある市町村の1つに選ばれています。津南町はコシヒカリに適した環境の下、粘り気があり、甘くて、うまみがあるおいしいコシヒカリが生まれるのです。
お米作りの秘訣は子育てと同じ
本多 義光 [ みなかみ町 ]アグリサポート有限会社
本多さんが作られているブランド米は選別基準が高いそうですね。
本多 ええ、私どものブランド米は「利根川源流みなかみ極上米 水月夜」言います。おいしいお米と言われる食味値の全国平均が65〜75点ですが、「水月夜」と名のれるコシヒカリは86点以上です。生産している水月夜生産組合30軒の内、検査基準をクリアして「水月夜」と名のれるコシヒカリを生産できるのはわずか10軒そこそこしかありません。
大変厳しい基準ですね。
本多 ブランドの信用を維持するためには必要なことです。私のやり方をしても86点をクリアできるのは生産量の半分くらい。また、「86」という数字は米の国際コンクールに出せるのが85点以上で、その以上のレベルを目指しています。また、米袋ごとに食味検査を行い、品質保証書をつけます。食味は精米後にも変化するので。
おいしいお米作りの秘訣を教えてください。
本多 そうですね、例えれば〝子育て〟と同じです。いつまでも甘やかしてはいけない、ということ。水や肥料をやり過ぎないことです。私は中干し以降ほとんど田んぼに水をやりません。土が湿っていれば、稲は根から水を吸い上げようとするものです。肥料をやりすぎると食味が落ちて、倒伏すると品質の低下となり、刈り取りも大変です。
他に気を付けているところはありますか。
本多 あとは籾殻を長時間かけて燻した「籾殻燻炭」を土に混ぜて使用しています。これにより微生物の活動が活発になり、稲に活力が生まれます。
でも、20代前半まではトマトやイチゴの栽培がメインだったそうですね。
本多 高齢化が進んだ農家から稲作を頼まれることが多くなったのがきっかけです。また、政府の減反政策により徐々に田んぼが放棄されていく様を見て、先祖代々受け継いできた稲作文化を滅ぼしてはいけない、と思いました。米農家と稲作文化を守るため米のブランド化は必要です。