ごはん道 そしてごはんのおいしさを噛み締めるべし

作成: 日時: 2021年9月23日
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今から18年前の2004年1月、私たちは東京・日本橋から新潟・南魚沼に会社ごと移転した。ライフスタイル雑誌を制作しながら自分たちの生活は3食コンビニ。自分たちの「ライフスタイルを見直したい」と、移住を決意するわけだが、その最終候補地は軽井沢と南魚沼。南魚沼を選んだ理由は「米を勉強するため」だった。
実はその2年前、2002年から私たちは雑誌と並行して「オーガニック・エクスプレス」というリアルメディア(食品の委託製造・販売)を始めていた。メインコンテンツはお米。「自分たちの扱うお米のことくらい詳しく知らないと」、ということで南魚沼に移住したわけだ。
当時、私たちはリサーチと称して、全国の美味しいお米を食べまくっていた。そして気が付いた。「南魚沼の食味は群を抜いて高い」。もちろん全国各地に美味しいお米を作る生産者はいる。でも地域の平均レベルとなると魚沼は群を抜いて高い。
よく農産物は「土づくり」が重要と言われる。植物は土で育つのだから疑う余地がない。米も土が重要なことは間違いないが、米は「水稲」。水も重要だ。紙幅に限りがあるので詳細は割愛するが、一言でいうなら「微量元素」に答えがある。もちろん雪国であること、標高2000メートル級の山に囲まれているのに平場が標高100メートル前後しかない特殊地形、それらがもたらす気候も重要だが、最も重要なのは水と土に含まれる「天然」の微量元素だ(天然、というのが重要)。
魚沼産コシヒカリには「風土」の全てが表現されている。控えめながらツヤツヤと輝き、口に含むとほんのり甘く、優しい。
まるで魚沼で暮らす人々のようだが、それも当然。人間の身体は「水と食べ物」で出来ている。これもまた魚沼の恵みだ。
岩佐 十良 (いわさ とおる)
クリエイティブ・ディレクター、編集者。
「自遊人」「里山十帖」オーナー。

 

メインディッシュはお米

 
旅の宿の一番の楽しみといえば何といっても食事だろう。その地域ならではの山海の食材をその地域の郷土料理方法でいただく。それこそ旅の醍醐味であることは万国共通に違いない。しかし、ごはんは一番最後におなかを満たすために提供される、というが一般的ではないだろうか。
南魚沼市にある「里山十帖」はメインディッシュがお米、という宿だ。オーナーである岩佐十良(いわさ とおる)さんは南魚沼産コシヒカリのおいしさに魅せられて、東京から会社ごと移住をしたほどの人。もちろん「里山十帖」で提供されるお米もこだわり抜いたものだ。ここのお米は魚沼産コシヒカリの中でも、特別に美味しいお米ができる地域と言われる「南魚沼市西山地区(旧塩沢町)」の希少な魚沼産コシヒカリを使用している。西山地区というのは魚野川左岸、標高600から1000メートルの小さな山脈の麓一帯のこと。東西の幅約100メートルから1キロ、南北の延長距離は約30キロというわずかな地域だ。その西山地区の中でも「抜群においしい」といわれているのが、君沢・大沢・樺野沢の周辺で、幅200メートル、延長距離は約3キロというごくわずかな地域。ブルゴーニュのワインに例えるならばロマネコンティのような田んぼ。岩佐氏に言わせると〝ここのお米はテロワールが感じられる〟という。

 

 
お米をさらに美味しくするためのこだわりは、収穫と保存方法にも。収穫と天日干しは「里山十帖」&「自遊人」のスタッフが行っていて、極上の甘みと香りをさらに引き立たせるために、毎年スタッフ総出だそうだ。そして収穫後は契約している雪室で保存。一年を通して湿度100%、室温3℃に保たれるという雪室はお米を乾燥させず、翌年夏まで新米のような美味しさを保つとのことだ。
メインディシュであるお米は一組ずつ土鍋でじっくり炊き上げるのが「里山十帖」のスタイル。炊き上がったら最初は「煮えばな」のごはんをひとくちお茶碗に入れて供される。「煮えばな」とはお米からごはんに変わる瞬間のお水をたっぷり含んだ瞬間のこと。その甘さと触感は、まるでお米のアルデンテ。その後ゆっくり蒸らして一膳。お腹いっぱいでもすっと食べられてしまう、不思議なごはんだ。
ごはんをおいしく炊くには米が生まれたその土地の水で炊くとよいという。新米の季節にはぜひ当地でごはんのおいしさを噛み締めて欲しい。

 

里山十帖
南魚沼市大沢1209-6
TEL.0570-001-810